【カンヌライオンズ2022 解説】PR会社プランナーがカンヌ受賞作から選ぶ、マイベストオブカンヌ2022
今の時代に即したPR手法やブランディングのノウハウなどを読み解く連載企画「SSUのPRメソッド」。今回は、「PR会社プランナーがカンヌ受賞作から選ぶ、マイベストオブカンヌ2022」 というテーマでお話しさせていただきます。
これまでのPRメソッドはコチラから。
みなさま、ご無沙汰しております。PRプランナーの亀山です。前回のメソッド記事から4ヶ月も間が空いてしまいましたが、いかがお過ごしでしたでしょうか。自分は引っ越しの手続きやら、家具選びやらでバタバタしておりまして、カンヌライオンズ2022が終わってから1ヶ月も経っての記事公開となってしまいました…。廃品回収 って、お金掛かるんですね。引っ越し代と同じくらい掛かって半泣きしています。
そんな話はさておき、今年のカンヌは3年ぶりのリアル開催となりました。いつかは現地にいってみたいと思いつつ、いつもSNSやWEB記事などで現地の様子を伺うばかりです。
■そもそもカンヌライオンズとは
世界三大広告祭の一つであり(実質No.1)、広告業界の1年間(今年のカンヌライオンズ2022は2021年3月1日~2022年4月30日が対象)企画を表彰するイベントになります。このような広告祭があることで、世界のトレンド、広告業界の動向が分かることはもちろん、表彰を受けた広告主や担当の広告会社、クリエイターなどのモチベーションアップにつながります。
広告祭では主に❶表彰、❷セミナー、❸交流の3つの機能があるため、広告祭に何か企画をエントリーしていなくとも参加することは出来ますし、参加すると勉強になる/同業種のネットワークが広がるなどのメリットもあります。
今年は29の部門がありました(下記画像、下段部分)。
(参考:日本公式サイト)
■PRプランナー的視点ではカンヌをどう見るか
個人的な視点でカンヌ受賞作を見ていくにあたり、自分の選定基準といいますか、企画の見方をはじめに述べさせていただきます(若輩者で大変おこがましいのですが、ご容赦くださいませ)。
4つのポイントを上げていきますが、最初の2つはもはや受賞の前提条件とも思われますが、後半2つは自分の今後の企画立案で参考にしたいので、エゴ強めです。
❶今の時代/空気感に合っているか
もはやPRだけでなく、広く広告にも言えることだと思いますが、今の時代に合ったコミュニケーションが出来ているかは重要です。サステナブルな取り組みか、誰かを犠牲にしたコミュニケーションにしていないか(多様性の尊重など)です。
❷ビジネスインパクトがあるか
結果がついてきたかどうかです。ただメディアに取り上げられただけではなく、人が動いたかどうか、広告主が企業であれば売上や顧客開拓に貢献したかどうか、などです。
❸新しいアイデア(表現/仕組みなど)があるか
名著「アイデアのつくり方」では、”アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ”と表現されておりますが、何か新しいアイデアでWowを起こせているかを見ていきたいです。
❹メッセージ/切り口に鋭さがあるか
もはや商品での差別化が難しい中、何を言うかが重要になってきています。メッセ―ジの鋭さや、どんな文脈で企画が世の中で話題になっていくかは、自分もアイデアを考える上で詰めていきたいところなので、ポイントに加えます。
■マイベストオブカンヌ 5作品を紹介!!
それでは、本題に入りますが、マイベストオブカンヌ5作品を解説していきます。
1.THE BREAK AWAY
Cannes PR Lions /Creative Strategy Lions 2022 Grand Prix
スポーツブランドが”Sport is freedom”というビジョンを表現するべく、刑務所の囚人にもスポーツに参加する機会を作った企画。
面白いのが、塀の中の囚人と、コロナ禍で家に閉じ込められた人を同じ意味合いとして掛けていること。
スポーツがどんな人も解放することを表現したのは、日本ではリスキーだなと思いつつ、どこかカッコいいと思いました。
刑務所の囚人でもスポーツイベントに参加できるよう、eCyclingチームでオンラインの大会に参加したのが新しい手法というか、斬新な取り組みだったと思います。
ビジョンを表現するべく、フリーダムとはかけ離れた人を探していった結果、囚人に辿り着いたのだと想像しますが、中々主人をフリーダムにさせるアイデアは思いつかないですよね。この企画はアイデア発想力とそれを実現するための手法がほんとうに素晴らしい企画です。
画像参照元:
https://www.canneslions.com/
https://road.cc/content/tech-news/decathlon-launches-ecycling-team-belgium-prisoners-282331
2.LIQUID BILLBOARD
Cannes OUTDOOR Lions 2022 Grand Prix
参加型のOOHという、面白い表現ですね。
人が実際に泳ぐことで、クリエイティブが完結するという美しいOOHの展開方法です。
昨今日本では、3D表現のDOOHが話題になっていますが、これは3Dというか実在する人が広告枠の中に入れるという、なんとも斬新な表現です。
しかも、その表現の斬新さが、伝えたいメッセージときちんとリンクしており、嫉妬するアイデアでした。
画像参照元:
https://www.canneslions.com/
https://www.jackmorton.com/work/liquid-billboard/
3.THE KILLER PACK
Cannes HEALTH & WELLNESS Lions 2022 Grand Prix
パッケージに細工をすることで、問題の解決をするというもの。
解決の仕方が、蚊取り線香のパッケージという、もともとゴミになるものをただいつも通りに捨てるだけで参加できるというシンプルさ。
気持ちいいアイデアです。
商品パッケージをサステナブルにする、ラベルレスにするなどのアイデアはありましたが、こちらは商品使用後に新たな役割をもたらすというところが新しいアイデアです。
インサイトではないのですが、社会課題の原因であるゴミ収集場所と、いずれゴミになる商品パッケージを結び付けたのも、鋭い視点でした。
画像参照元:
https://www.canneslions.com/
https://www.dandad.org/awards/professional/2022/235525/the-killer-pack/
4.DATA TIENDA
Creative Data Lions /Glass: The Lion for Change 2022 GRAND PRIX
Creative Data Lionsはその名の通り、データ活用によるアイデアでクリエイティブな企画を表彰する部門。こちらはメキシコの過去の女性の購買履歴を収集分析することで、マイクロクレジット(貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービス)を発行できるようにした企画です。
女性の起業支援になるので、広告主(投資会社)からしても、新たな投資先が増えたりなどのメリットがあります。
社会課題をデータ活用の企画でクリエイティブに解決した、カッコいい企画です。
画像参照元:
https://www.canneslions.com/
http://www.latinspots.com/sp/comercial/caso-data-tienda/40044
https://adage.com/article/special-report-cannes-lions/ddb-mexico-wecapital-win-cannes-glass-lion-data-tienda-womens-credit-history-campaign/2421741
5.Long Live The Prince
Titanium Lions 2022 GRAND PRIX
暴力根絶のために活動する財団が、その設立のキッカケとなった刺殺された少年を、FIFAのサッカーゲーム内にサッカー選手として登場させることで、話題化を狙った企画。
昨今、ゲーム内で通常のコンテンツとは違ったものを作り上げるプロモーションが増えているが、こちらはそのコンテンツ制作の背景/想いまでもコンテンツにマッチしたところが素晴らしい点だと思いました。
少年からしたらナイフ犯罪は、自分ゴト化しづらいところを、普段から遊んでいるコンテンツ内に接点があり、それについて知ると共感せざるを得ないところが、ただの流行りのゲーム内プロモーションとは違う企画力だと感じました。
画像参照元:
https://www.canneslions.com/
https://www.creativereview.co.uk/kiyan-prince-foundation-long-live-the-prince-campaign/
https://www.creativebrief.com/agency/engine/case-studies/kiyan-prince-football-prodigy-killed-aged-15-returns-as-a-virtual-professional-footballer-to-raise-awareness-of-knife-crime
■おまけで番外編
新しさやメッセージの鋭さはこれまでご紹介した企画ほどではないですが、シンプルにクリエイティビティ(表現力)で勝負してきた企画をご紹介します。
Better With Pepsi
以下、参照:
https://agenda-note.com/brands/detail/id=5125&pno=2
「どのハンバーガーもペプシと一緒だともっと美味しく食べられるよ」というペプシのグラフィック広告ですが、もう本当に素晴らしい。各ハンバーガーブランドの包みにペプシカラーを見出し、それを表現した広告です。
キャッチコピーも「better with」とシンプルにして、無駄に語らない潔さも好きです。
LESS TALK, MORE BITCOIN
Direct Lions 2022 GRANDPRIX
以下、参照:
https://www.advertimes.com/20220628/article388203/
世界で最もCMの費用が高いと言われるのがアメリカのスーパーボウルの広告枠です。そこでは、どの広告主も著名タレントを起用し、制作費も莫大なCMを放映することが一般的ですが、中でもひと際異彩を放っていたのが、大手仮想通貨取引所CoinbaseのCMです。
約1分間、画面の中をただバウンドし、色が変わるだけのQRコードをひたすら流すというクリエイティブは、そのシンプルさゆえに逆に目立ち、多くの人がそのQRコードを読み取り、Coinbaseのサイトにアクセスしました。
この表現が話題になり、多くのメディア露出を獲得し、最終的には新規登録者数の増加に貢献したようです。
もはや広告主はこの広告枠を買い、豪勢なクリエイティブを流すことが一般的だった中、逆転の発想で話題化をしたこのアイデアは、一本取られたという印象を受けました。
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以上で、「PR会社プランナーがカンヌ受賞作から選ぶ、マイベストオブカンヌ2022」 を終わりとさせていただきます。カンヌは本当に、刺激を受けますね。
少しでもみなさまのインプットの励みに、気付きになれば幸いです。
次回以降のブログも、他のメンバーのブログも、ぜひぜひお楽しみにしてください!(もちろん、過去記事を見逃している方は、必ずチェックお願いします!!)