DAYS

15年前のサニーサイドアップとの出会いがもたらしたものとは?イタリア在住ヴェネチアン・ガラス・アーティスト、土田康彦さんにインタビュー

イタリア在住のヴェネチアン・ガラス・アーティスト、土田康彦(つちだやすひこ)さん。ガラス作品の制作を軸に置きつつも、私たちサニーサイドアップが出逢って以降も小説や食、映画などその興味と活躍の広がりはとどまることを知りません。

今回は日本に戻って長期滞在している土田さんに、その経歴やサニーサイドアップとの繋がりについてお話を伺いました。

これまでの経歴とガラス作品へのこだわり

——まずは土田さんの経歴を改めて教えてください。

土田:アートに興味を持ったのは、小学校5年生のときに岡本太郎さんがCMで言っていた「芸術は爆発だ」という言葉に子どもながらに衝撃を受けたことがきっかけでした。芸術家になるためにヨーロッパ放浪の旅に出ようと思っていたのですが、アーティストとして食べられるようになるまでのお金をどうしようと考えた先に辿り着いたのが、料理だったんです。

料理の技術を身につけた後にヨーロッパのレストランでバイトをすれば、仮に給料が出なくても賄いは食べられるから、それで生きていけると思いました。そのために、料理の基礎を身につけるべく辻調理師専門学校に進学し、卒業後にパリへ行きました。

——アーティストになるまでのお金を稼ぐ手段を得るために、調理の専門学校に通われたんですね。

土田:はい。ただ意外にも、パリに行った80年代後半は「料理こそアートだ」という巨大なムーブメントが起こっていたんです。若い料理人が芸術家のように扱われ、料理イベントも盛んに行われていました。パティシエの手がけるケーキやチョコレートも、彫刻のような立ち位置になっていて。それから、アートと料理を融合させる自分のスタイルを考えるようになりました。

——パリに行ったことは、土田さんにとって人生を変える大きなターニングポイントなんですね。

土田:今振り返れば、専門学校の卒業制作でヨーロッパの街並みのランドスケープを砂糖で作っていたんですよね。当時は料理とアートを別軸で考えていたつもりでしたが、無意識のうちに結びつけていたのかもしれません。

——土田さんはアートの中でも、今はガラスに軸を置いて創作をしていらっしゃいますね。

土田:イタリアを旅しているときに、ヴェネチアにある「ハリーズ・バー」という歴史あるレストランに立ち寄ったんです。辻調理師専門学校とも繋がりのあるお店で、そこのオーナーとお会いした瞬間に「僕を信じて今すぐハリーズ・バーに来い」と言われたんです。それですぐにパリからヴェネチアに拠点を移し、ハリーズ・バーで働き始めました。

ヴェネチアは、小さな街の中にガラス工房やギャラリーがたくさんある場所です。アーティストやクリエイターならば自然とガラスの素材に注目して、ガラス工房に通ってしまう流れがあるんですよ。僕もその一人ですし、ピカソもヴェネチアに4ヶ月滞在した際にはヴェネチアン・ガラスを手がけたそうです。

——ガラス作品にどんなこだわりを持って制作していらっしゃるのですか?

土田:こだわりは、わざとらしくない“和”の感覚を入れることですね。日本の象徴とされる桜や富士山を直接的に表現することは避けて、よく見たら日本人が作っているのではないかと思うくらいの塩梅にすることを意識しています。

サニーサイドアップとの出会いや思い出

——(ここからは長年土田さんをサポートしている、サニーサイドアップ取締役 松本も交えてお話を伺います。)サニーサイドアップとの出会いや印象に残っている出来事を聞かせてください。

土田:サニーサイドアップの方々と最初に出会ったのは、今から15年前ですね。ご紹介いただいて、次原社長や松本さんらと食事に行ったのを覚えています。

松本:これまで一番印象に残っていることでいうと、やはりEテレの「SWITCHインタビュー 達人達」で土田さんとパティシエの小山進さんにご出演いただいたことですね。

土田:小山さんは番組で共演する前から、松本さんに「会わせたい人がいる」とご紹介いただいていたのですが、本当にフィーリングが合う方です。辻調理師専門学校の先輩にあたる方ですし、人間性や仕事観も共感する部分が多いんです。

松本:「SWITCH」は双方のベースである場所を互いに訪れる番組なのですが、撮影地は原則国内。土田さんのいるヴェネチアまで行くとなると調整が難しく、共演が実現するまでに1年以上かかりました。でも結果的にすごく好評な回になって、6回ほど再放送するまでになったのは嬉しかったです。

——土田さんが印象に残っていることはありますか?

土田:僕が昨年出版した初の小説『辻󠄀調鮨科』を松本さんと一緒に創り上げたということです。392ページの長編なのですが、当初はその倍くらいの文章量で。何度も推敲してくださったり出版社を何社も回ってくださったり、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

松本:土田さんの文章って、すごく独特なんですよね。自分だったらカットすると思う箇所でも、もしかしたら土田さんの文章の良さはここにあるかもしれない、と考えたらどんどんわからなくなってしまって。

土田:僕の口調や文体を知らない他の編集者さんに見てもらっていたら、数字を合わせるためにカットされてしまった部分もたくさんあったと思います。これまでの長い付き合いを通じて僕の人間性をわかってくださっている松本さんに編集してもらえたのは、本当によかったですね。執筆に10年、推敲に3年と長い時間をかけて作り上げました。

52歳の誕生日までにはどうしても出版したいという気持ちがあったので、自費出版で出そうかとも考えたのですが、松本さんがもう少し待った方がいいとおっしゃってくださって。そうしたら誕生日の3日前に出版社から電話をいただき、出版が決まりました。

やっぱり10年かけて書いたものを世に出す価値があると認めてもらえたのは嬉しいです。これまでガラスに限らずたくさんの作品を作ってきましたが、小説は特に充実感のあるものでした。

「GENTEN.HAKODATE」への出演

——土田さんは、GLAYのTERUさんが行うプロジェクト「GENTEN.HAKODATE」にも出演されていますね。

土田:僕が出演した「GENTEN HAKODATE vol.01」は、TERUさんのご自宅やギャラリーなどがある函館に、僕の作品を運び込むという企画です。TERUさんと二人で新幹線と在来線を乗り継いで行って、アートを展示しながら料理を振る舞いました。

TERUさんは50歳を過ぎてから、原点回帰するために自分で生まれ育った街を見直したいと言っていたんです。僕も近年の社会情勢を受け、原点回帰するために久しぶりに日本に長期滞在したいと考えています。

松本:土田さんとTERUさんも、もう10年以上の仲になりますよね。TERUさんが45歳で大きなライブツアーを完走して次の夢を探す時期に、TERUさんから土田さんを訪ねたいという申し出があって。

土田:2週間くらいずっと二人でものづくりをしたり、これからの人生を語り合ったりして、どんどん仲が深まりました。そのときに、ヴェネチアにあるサンマルコ広場という美しい場所でTERUさんの歌が聴きたいと言ったら、TERUさんも同じことを思ってくれたみたいで。

それからヴェネチアのカーニバルで、TERUさんがライブをするようになったんですよね。今もGLAYのファンクラブ30周年記念のライブをサンマルコ広場で開催するために、動いている最中です。

僕が出演する「GENTEN HAKODATE」は、Vol.07までで10月まで続きますのでぜひご覧ください!

松本:土田さんはいつも新しい世界から刺激を受けていますよね。

土田:活動範囲はガラスに限りませんが、最終的にはすべてガラスに落とし込んでいると思います。僕はガラス作品を作る際に、イメージのひらめき、言語化、平面化、造形化という4段階を踏んでいます。小説を書くということは二番目の言語化にも含まれるので、読者の方が展示会で「この作品は小説のあのシーンじゃない?」と感じることもあるかもしれません。

僕の信条のひとつに、「本当に美しいものは自分の知らない世界にある」というのがあります。自分の知らない世界に本物があると信じているので、常に謙虚でありたいし、これからも新しい世界を見に行きたいと思っています。

最後に

——土田さんとサニーサイドアップは15年間、さまざまな形でお付き合いが続いているのですね。

松本:サニーサイドアップは、「こういう役割だからこう動かなければならない」というマニュアルがない会社ですから。縛りのない会社の土台があり、さらに土田さんという多彩な才能をネットワークする方がいらっしゃるので、テレビ番組から本の出版、映画の出演など、多方面でご一緒できるのかなと思いますね。

土田:例えば、「作品は私が売るから、土田は新しいことをせず、工房に篭ってガラス作品だけ作っておけばいい」というマネージャーに出会っていたら、僕はまた違う人生を歩んでいたと思います。一方で松本さんは、「土田さんがやりたいなら」と見守りつつサポートしてくださるので、とても心強いです。

**

ヴェネチアン・ガラス、小説、料理、映像作品などあらゆる芸術に携わる土田さん。これからも多方面でのご活躍をサニーサイドアップがサポートしていけたらと思います。

ぜひ土田さんの作品や「GENTEN.HAKODATE」もチェックしてみてくださいね!

土田康彦 公式WEBサイト:https://tsuchidayasuhiko.it/
土田康彦 公式Instagram:@tsuchy_official

  1. HOME
  2. DAYS
  3. 15年前のサニーサイドアップとの出会いがもたらしたものとは?イタリア在住ヴェネチアン・ガラス・アーティスト、土田康彦さんにインタビュー