企業の垣根を超えた“ボーダレス”な関係が生んだ、たのしいさわぎ。「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」のPRの裏側とは?【前編】
コロナ禍の状況下においても、感染防止対策を徹底し安全に楽しめるスポットとして注目を集めているミュージアムがあります。東京・お台場に位置する「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)」です。
チームラボボーダレスは、2018年の開館からの1年間で160以上の国と地域から年間約230万人の動員を達成。ミュージアム単体だけではなく、東京という都市自体の魅力向上にも貢献し、今もなお世界中の注目を集める“磁場”のある場所として、 多くの人々を魅了し続けています。
そして今年、このミュージアム開館時のPR活動が海外のPR・広告業界でも改めて評価され、国際PR協会が主催する国際PRアワードの最高峰「ゴールデン・ワールド・アワーズ」やリスボンPRアワードなど、数々の海外アワードで表彰されました。
なぜ、このミュージアムが世界中の注目を集めるまでに至ったのか。プロジェクトのPRやブランディングを手掛けたキーパーソンである、森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 新領域企画部の高橋一菜さんと、株式会社サニーサイドアップ パブリックリレーションズ事業本部 1局の蛭川貴之リーダーに、“たのしいさわぎ”が生まれた裏側を伺いました。
■「地図のないミュージアム」という、前例の無いビッグプロジェクトがスタート
―海外アワードでの表彰が続いていますね。改めて、ミュージアムの概要を教えてください。
高橋さん(以下、敬称略):
チームラボボーダレスとは、森ビル株式会社とアート集団のチームラボが共同で運営する、境界のないアート群による「地図のないミュージアム」です。
私は、このミュージアムを2018年の開業期から担当しています。プロジェクト全体をみる役割と、PR&プロモーション担当者をサポートするポジションとしてチームに入りました。
このミュージアムは東京初のチームラボの常設展であり、その広さも約10,000㎡とチームラボが手掛けるプロジェクトの中でも最大級。チームラボと森ビルが主体となり企画から運営まで一貫して担当するのも初めてでした。文字通り“前例の無いプロジェクト”でしたので、PRやプロモーションをどうやって仕掛けていけばいいのか、悩み所ではありましたね。
―サニーサイドアップがPR面で関わるようになったのは、2018年6月の開館前頃からでしょうか。
蛭川:
はい。当社では、2018年6月の開館前から活動を開始し、開業から約1年間のPR活動を担当しました。“ボーダレス”のコンセプトのもと、季節によって変わる作品群やここでしか得られない「身体をつかった能動的な体験」等ができることを中心に、当時急増していたインバウンド層に向けても積極的に情報を発信。日本国内だけでなく、“海外でも注目を集めるミュージアム”というブランドイメージの醸成にも注力しました。
高橋:
元々私は理系の建築出身で、オフィスの内装に関わる部署に在籍していました。このミュージアムの開業前に部署異動し、PRに関しては分からないことだらけだったので、サニーサイドアップのみなさんに色々と教わりながら戦略を練っていましたね。
■ギリギリまで内容が変わるアート作品群だからこそ、情報発信は難しい
―これだけのビッグプロジェクトとなると、PRの面でも苦労は多かったのでは?
蛭川:
2018年6月の開業に向けて、チームラボのみなさんは開業直前ギリギリまで作品のクオリティをあげていました。メディア向けの最初の内覧会を実施したのは、開業2か月前でしたね。
高橋:
アーティストのみなさんが直前まで悩みに悩んで、出来上がるアート作品の最終的なアウトプットのイメージが刻々と変化していたので、ハード的にもソフト的にも大変ではありました。開業直前まで作品は見られず、壁しかなかったので、どんな施設になるのかとヒヤヒヤしましたね(笑)。
―アート作品群を実際に見ることが出来ない中で、PRやコミュニケーションの戦略を練り、プロジェクトを進めていくのは大変でしたよね。
蛭川:
チームラボのみなさんの作品への熱意やこだわりは目を見張るものがありました。アートにかける想いが強い分、開業直前までさまざまな調整などをされていました。
通常のアート作品であれば、2ヶ月前にはその作品情報をメディアの方々にも発信したいところですが、直前まで内容や公開日がギリギリまで決まらないので、事前に情報を発信することが困難でした。作品の詳細な情報が無いと掲載が難しい新聞媒体などは苦労しましたが、なんとかご紹介いただけるよう、さまざまな工夫をしました。メディアの方々には、“アーティストとしての強い想い”も伝えていましたね。
その想いをメディアの方々にも伝えることで、期待値を高めることに成功。その結果、開館直前に実施した内覧会には500名以上ものメディアの方々に来ていただきました。
■KPIは東京を代表するデスティネーション⁉ PRとコミュニケーション
―森ビルさまとチームラボさま。業種の異なる2社の長所をあわせて、温度感・足並み揃えて発信するのに苦労したようですね。
高橋:
森ビル(不動産)×チームラボ(アーティスト)という、決して交わることの無さそうな2社が対等に意見を出し合い、意思決定をしていくということが何よりも大変でしたね。全く違うアイデアがPRのテーブルにあがってくる。特に開業直前は、そのアイデアを最終的にどう発信するのかをすり合わせるのは大変でした。
―プロジェクトの翻訳者となって、世の中に発信するというPRコミュニケーターとしての役割が重要になってきますね。実際のPR活動を通じて、良い成果が生まれたポイントはありましたか?
蛭川:
ターゲット層を絞ってしまっては、東京を代表するデスティネーション、という高い目標には到底達しない。今回のミュージアムでは、全世代の方々に対して情報を届けるために、PRを設計する必要がありました。
そこで、ミュージアムを紹介するためのさまざまな切り口を創り出して、媒体ごとに加工してメディアアプローチを行うように設計しました。チームラボの作品のように、思わず写真を撮ってしまいたくなる作品であれば、当時のトレンドである“SNS映え”いう切り口でアプローチするところですが、一過性のトレンドにしたくなったので、そのようなワードは敢えて禁じ、作品の本質的な要素、コンセプトをさまざまな切り口で伝えました。
また、開業後も情報発信を怠りませんでした。「開業初日に約700人が行列をつくる」「3か月連続でチケット完売」など、こまめにレポートを発信。継続的に施設の状況を伝えていきました。
結果、多くのメディアでご紹介いただき、開業一年目にして約230万人の来館者を達成。これは、世界の名立たる美術館にひけをとらない数字です。
高橋:
サニーサイドアップの皆様には、私たちの高すぎる目標を実現するため、全面サポートしていただきました。
この施設のコンセプトを丁寧に伝えてきたからこそ、美術業界の方だけでなく、様々な業界の方々にも注目していただけたのだと思います。来館者230万人という数字は、さまざまな要素がすべて繋がった“奇跡”だと感じています。
蛭川:
森ビルの方、チームラボの方で一人でも欠けていたら、この来館者の記録は実現できなかっただろうと感じます。
―1社だけで何かを決断して実行してくのではなく、森ビルさま、チームラボさま、サニーサイドアップの3社がそれぞれアイデアを出し合い、チームが同じ方向を向いていく。その結果がこの驚異的な数字に結び付いたんですね。